事業継続力強化計画とは?
この記事では、経済産業省が認定制度としてはじめた「事業継続力強化計画」についてまとめています。
この記事を読むと次のことがわかります。
- 事業継続力強化計画とは
- 事業継続力強化計画とBCPの違い
- 事業継続力強化計画の作り方
- 事業継続力強化計画の申請方法
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事業継続力強化計画とは
事業継続力強化計画とは、中小企業が防災・減災に関して作成する事前の計画です。
2011年の東日本大震災以降、度重なる集中豪雨や地震などの自然災害に加え、未知の感染症や世界政情不安など、中小企業を取り巻く経営環境は様々な危機に囲まれています。
そんな経営環境にあって、あなたの会社が災害に遭った場合、どのように復旧したら良いのか、どのように災害被害をうけないようにするのか(減災)、防げる被害は一体何なのかなどを、事前に従業員と共有しておくことはとても重要ではないでしょうか。
事業継続力強化計画は、いつ来るかわからない災害に対する中小企業のバイブルというべきものなのです。
事業継続力強化計画とBPCの違い
前述した「事業継続力強化計画とは?」を一読すると、「あれ?BCP(事業継続計画)と何が違うのだろう」と思ったかもしれません。
ということで、事業継続力強化計画とBCPの違いを表にまとめてみました。
比較項目 | 事業継続力強化計画 | BCP |
---|---|---|
フォーマット | 指定書式あり | フリー |
認定機関 | 経済産業大臣 | なし |
助成金 | あり | あり |
税制優遇 | あり | (あり) |
金融支援 | あり | (あり) |
補助金の加点 | あり | (あり) |
一番の違いは「認定」です。
中小企業強靱化法が2019年(令和元年)5月29日に成立し、同年7月16日より施行されました。この中小企業強靱化法の中で、国が中小企業の事業継続力強化計画を認定する制度を作成。この認定は2020年(令和2年)10月1日から開始されています。
事業継続力強化計画は、『認定』を受けることがゴールの一つとなっています。
つまり、事業継続力強化計画は国が認定する計画、BCPは誰も認定はしてくれない計画という違いがあります。
事業継続力強化計画はBCPの一部
BCPは認定してくれないので要らないのかと言えば、そうではありません。
いきなりBCPではハードルが高いという中小企業事業者の声に応える形で、BCPより範囲をせまくして導入しやすく考えられたものが「事業継続力強化計画」となります。
実は、事業継続力強化計画は、中小企業(大企業もですが)においてなかなかBCP(災害復旧対策含む)が導入されないために、どうにかして中小企業にBCP(事業継続計画)を作ってもらおうとする側面があります。
前述したように、日本では地震や豪雨といった自然災害に毎年襲われています。日本の企業の99.7%を占める中小企業も、毎年のように自然災害に見舞われています。そんな自然災害に見舞われたとき、事前にBCP(事業継続計画)を作っていれば、減災できたり、復旧も格段に早くでき、通常に事業に戻っていきやすくなります。
事業継続力強化計画からBPC、そしてBCMへ
国は、中小企業に、まず事業継続力強化計画を導入してもらい、その後BCPへと拡大していって欲しいと考えています。そして、最終的にはBCP(Business Continuity Management:事業継続マネージメント)にまで進めたいという願いがあるのです。
事業継続力強化計画の作り方
事業継続力強化計画作成にあたっては、中小企業庁のWebサイトに「事業継続力強化計画策定の手引き等」が用意されています。
この中にある「事業継続力強化計画策定の手引き」には、計画策定の手順として以下の手順が書かれています。
- 事業継続力強化の目的の検討
- 災害等のリスクの確認・認識
- 初動対応の検討
- ヒト、モノ、カネ、情報への対応
- 平時の推進体制
では、各ステップを確認していきましょう。
と、その前に注意があります。事業継続力強化計画を申請する際、「単独型」と「連携型」のどちらかで申請する必要があります。
2つの違いは「単独型」は自社のみ、「連携型」は近隣周辺の会社と共同、という違いがあります。単独型であれば、自社だけで作成できますが、連携型になると近隣周辺の会社等との調整が必要になります。
STEP1.事業継続力強化の目的の検討
何はともあれ、事業継続力強化を行う上で、「目的」を明確にすることはとても重要です。目的が定まらなくては、どんな計画も絵に描いた餅。何のために、事業継続力強化に取り組むのかを、経営者・役員・従業員でしっかりと意識統一することが、この後のステップで重要になります。
STEP2.災害等のリスクの確認・認識
災害リスクがハッキリすれば、どんな災害対策をしておけば良いかわかりやすいです。そのために、まずは事業所・工場などが建っている地域のハザードマップを確認して下さい。
「事業継続力強化計画策定の手引き」には、以下のサイトが紹介されています。
- ハザードマップポータルサイト https://disaportal.gsi.go.jp/
- 国土交通省 川の防災情報 https://www.river.go.jp/index
- J-SHIS(地震ハザードステーション) https://www.j-shis.bosai.go.jp/
どんな災害がくるのか想像を巡らせながら、その災害がきたときにどんな被害が出るのかを考えるのがこのステップです。
ここで考えた事しか、その後対策を立てることはできないので、これでもかというくらい考えるのがオススメです。この時、被害想定を「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」の4つの経営資源の切り口から考えるのがポイントです。
東日本大震災を経験したある官僚がこんな言葉を残しています。
『備えたことしか、役には立たなかった。備えたことだけでは、十分ではなかった』
STEP3.初動対応の検討
初動対応とは、災害が発生した直後の対応のことです。災害が発生して最も慌てふためいているときに何をやればいいかなんて、とっさにはなかなか思いつかないものです。そこで、災害が発生したときに何をすべきか事前に検討しておきます。
企業は「ヒト」が基本です。そのため、安否確認などは最優先で行うべき項目となるでしょう。
さらに、災害発生時の緊急連絡体制も必須。被害状況を把握するための情報共有の方法などを検討しておきましょう。
もちろん、災害が発生した直後、緊急避難が必要であれば、避難場所の確認、避難ルートの確保も事前に行っておく必要があります。
STEP4.ヒト、モノ、カネ、情報への対応
STEP2で検討した「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」への影響を踏まえて、どのような対策を実行するかを決めて行きます。
例えば、「ヒト」。
三国志演技、呉の軍師として有名な周瑜は次のような言葉を残しています。
『何事も、その基は人です。人を得る国はさかんになり、人を失う国は亡びましょう。』
中小企業なら、なおさら、人材は重要というわけです。では、災害が発生した場合、「ヒト」にどのような影響があるのでしょうか?
- 意思決定者がいなくなる
- 属人的な仕事ができなくなる
- 帰宅困難者が発生する
- 出社できない人が発生する
こういったことが考えられます。これらに対して、どのような対策をとるべきか・・・
- 意思決定者がいなくなる
→ 変わりの意思決定者を決めておく - 属人的な仕事ができなくなる
→ 属人的な仕事を無くし、標準化する。
→変わりにできる人を育成しておく。 - 帰宅困難者が発生する
→ 会社や工場に備蓄を用意しておく - 出社できない人が発生する
→ 出社しなくても仕事ができる環境をつくる。
→ 変わりにできる人を育成しておく。
他にも色々と考えられると思います。
こういったことを、「モノ」「カネ」「情報」においても検討し、実際に被災した際に何をどの順番に実施するのか決めて行きます。
STEP5.平時の推進体制
事業継続力の強化は、何も災害時だけの対応ではありません。なんと言っても、平時、災害のないときの運用・取り組みが大事です。
例えば、避難訓練を想像してみるわかりやすいでしょう。避難訓練をしていれば、実際に災害に遭ったとき行動をしやすくなります。しかし、一度も避難訓練をした事がなければ、いざ災害に遭ったとき想像以上に動けなくなります。
また、計画を日々見なおしたり、時代の流れや社会情勢に合わせて更新して行く作業も平時の推進体制になります。
事業継続力強化計画の申請方法
上記STEP1~STEP5までを書類にまとめると、申請が可能になります。
中小企業庁のWebサイトによういされている「事業継続力強化計画策定の手引き等」には、このページで紹介した内容が、さらに事細かに載っています(分かりやすいとは言えませんが)。
事業継続力強化計画を申請する上で、注意点があります。
それは、単独型で申請するか、連携型で申請するかです。
単独型とは、自分の会社だけで事業継続力強化計画を申請する場合に利用します。連携型は、自分の会社だけではなく近隣の会社と連携して事業継続力強化計画を申請する場合に利用します。
どちらにしても、申請するためには、計画を立てて申請書を記載する必要があります。
事業継続力強化計画の申請
事業継続力強化計画は、「事業継続力強化計画電子申請システム」より行います。
具体的な方法は、リンク先のWebサイトに記載されているので、ココではサクッと簡単に全体の流れを紹介します。
申請をするためには、GビズIDアカウントが必要になります。GビズIDとは、1つのID・パスワードで様々な行政サービスにログインできるサービスです。
GビズIDを持っていない方は、先にGビズIDの作成を行って下さい。
GビズIDをお持ちの方は、画面右上「ログイン」から「GビズID」でログインして申請を進めていきます。
続いて、申請者情報を更新するページが表示されるので、最新の情報に更新。
次に、画面上部に表示されている「申請/届出」から「新規申請」を選びます。
ここからが実際の申請作業になります。以下の画面が表示されるので、作業手引きを確認しながら、各項目を埋めていきます。
「表紙/1.名称」の登録が完了すると、以下の画面が表示されます。
以降、「2.目標」~「9.実施状況報告」までを入力していきます。
入力する項目は、「事業継続力強化計画策定の手引き等」にすべて用意されているので、事前にWORD等にまとめておくと作業がスムーズに進みます。
ここから先のスクショは、この記事を書いている2022年7月8日時点で用意することができませんでした。
事業継続力強化計画認定事業者として公表
無事に認定を受けることができると、『「事業継続力強化計画」認定事業者一覧』で「事業継続力強化計画」認定事業者として公表されます。
登録事業者はまだまだ数多くはありませんが、着実に増えて行っているようです。
今後、取引する企業が、与信調査と一緒に事業継続力強化計画の有無も調べる時代がくるかもしれないです。万が一、今までの与信は大丈夫でも、災害が事業継続ができなくなるような会社と取引したいかどうか、考えるまでもなく明確です。
事業継続力強化計画認定ロゴマーク
使うか、使わないかは別として、認定を受けると「認定ロゴマーク」を利用できるようになります。
【まとめ】事業継続力強化計画とは?
日本では、毎年さまざまな自然災害に見舞われます。大雨、洪水、地震など自然災害は人間の都合などお構いになしにやってくるものです。そんな時、災害に遭っても事業を継続することは、経営やのみならず従業員、取引先・顧客、地域社会においても重要です。
しかし、災害に遭って立ち尽くすだけで何できない状態では、災害からの復旧は難しいでしょう。事業継続力強化計画は、事前に災害に対して何をどのようにするのかを決めておくという単純な話しではありません。
会社にとって何が大事なのか、何を最優先に対策するのかなど、会社のあり方が問われる場面も出てきます。
事業継続力強化計画は、作成する中で従業員の仕事への意識も大きく変化することになります。
まだ、事業継続力強化計画を作成していない会社は、一度、自社の事業継続にはどのような対策が必要なのかを考えてみてください。
キット、新しい発見がありますから。